回線は速いはずなのに、業務が止まる。
VPNが頻繁に切れ、再接続のたびに作業が中断される。
Web会議は音声が途切れ、画面共有は固まり、相手先に気を遣いながら謝ることが増えていく。
こうしたトラブルに直面したとき、多くの中小企業は同じ行動を取る。
「設定がおかしいのではないか」「ルーターを変えたほうがいいのか」「回線が混雑しているのかもしれない」。
原因を探し、調べ、試し、そしてまた別の対策を講じる。
しかし、状況はなかなか改善しない。
サポートに問い合わせても、
「回線自体は正常です」
「VPN側の問題ではありませんか」
「ルーターや社内ネットワークの構成をご確認ください」
と、責任の所在は曖昧なまま、話は一向に前に進まない。
ここで多くの経営者や担当者が、こう感じ始める。
「ちゃんと法人向けの回線を選んだはずなのに」
「大手のサービスだから安心だと思ったのに」
「速度もスペックも問題ないはずなのに、なぜこんなことが起きるのか」。
実はこの違和感こそが、重要なサインだ。
回線名の選び方が間違っていたわけでも、設定作業が雑だったわけでもない。
多くの場合、問題はもっと手前、回線選びの前提そのものにある。
特に共通しているのが、情シス(情報システム部門)が存在しない、もしくは専任で機能していない会社だ。
中小企業や小規模事業者では、IT担当は総務や経理と兼任だったり、外部業者に任せきりだったりするケースが珍しくない。
それ自体は珍しいことでも、間違ったことでもない。
むしろ現実的な経営判断だと言える。
だが、その「現実的な制約」が、回線選びの場面では思わぬ落とし穴になる。
情シスがいない会社では、
・誰が回線選定の最終判断をするのか
・何を優先し、何を捨てるのか
・トラブルが起きたとき、どこまでを自社の責任として切り分けるのか
こうした前提が、はっきりしないまま話が進みやすい。
結果として、
「説明された内容は理解したつもり」
「比較表も見たし、納得して契約した」
それでも導入後に問題が頻発し、「こんなはずじゃなかった」という状況に陥る。
重要なのは、これは個人の知識不足や判断ミスの問題ではないという点だ。
情シスがいない会社ほど、構造的に“失敗しやすい条件”を背負ったまま回線を選ばざるを得ない。
その現実を知らずに、「回線が悪い」「設定が悪い」と原因を探し続けると、同じ失敗を何度も繰り返すことになる。
この記事では、
なぜ情シスがいない会社ほど回線選びで失敗しやすいのか。
中小企業が抱える現実的な制約とは何なのか。
そして、その制約がある前提でも、どうすれば致命的な失敗を避けられるのか。
回線名やスペックの話に入る前に、まず構造の話から整理していく。
STEP2|なぜ「情シス不在」だと回線選びが歪むのか

情シスがいない会社で回線トラブルが起きると、多くの場合、原因は「技術」や「設定」の問題として扱われる。
ルーターの設定を見直す、VPNソフトを疑う、機器を買い替える。
一つひとつは間違った対応ではないが、それでも問題が解決しないケースが後を絶たない。
なぜか。
それは、そもそも回線選びの段階で、判断の前提が歪んでいるからだ。
本来、回線選びとは単なる通信サービスの比較ではない。
業務を止めないためのインフラ設計であり、トラブル時の責任分界まで含めた「運用の設計」でもある。
情シスがある会社では、この前提が暗黙のうちに共有されている。
たとえば、
・どの業務が止まると最も困るのか
・回線障害が起きた場合、どこまでを社内で切り分け、どこから外部に委ねるのか
・通信速度よりも優先すべき要件は何か
こうした問いに対し、情シスは技術と業務の両面から整理し、判断材料を揃える役割を担っている。
一方で、情シスがいない会社では、この役割を担う人がいない。
総務や経理、現場責任者が調べながら対応することになるが、彼らに落ち度があるわけではない。
単純に、その判断を専門的に引き受ける前提で組織が作られていないだけだ。
その結果、回線選びは次第に「比較しやすい情報」へと寄っていく。
月額料金、最大通信速度、キャンペーン、知名度。
これらは誰が見ても分かりやすく、営業資料にも必ず載っている。
だが、分かりやすい情報ほど、実は業務の安定性とは直接結びつかない。
情シスがいない会社では、
「この回線で、何が起きたら誰が困るのか」
「トラブルが起きたとき、どこで切り分けが止まるのか」
といった問いが、回線選定の場で十分に扱われないまま契約が進む。
さらに問題を複雑にするのが、判断の責任が分散する構造だ。
提案はベンダーが行い、説明は理解したつもりになり、最終決裁は経営者が下す。
しかし、その誰もが「全体を見て決めた」とは言い切れない状態になりやすい。
結果として、導入後に問題が起きたとき、
「こうなるとは思わなかった」
「そこまでは聞いていなかった」
という認識のズレが表面化する。
これは情報不足ではなく、前提整理を担う役割が空白だったことによって生じるズレだ。
重要なのは、情シス不在=判断できない、という話ではない。
情シスがいないことで、
・判断基準が後付けになる
・技術的な話がブラックボックス化する
・トラブル時の想定が置き去りになる
こうした歪みが、回線選びの初期段階から積み重なっていく。
だからこそ、回線名やスペックをいくら比較しても、根本的な不安は解消されない。
問題は「どの回線を選ぶか」ではなく、
**「誰が、どの前提で、何を判断しているのか」**にある。
この構造を理解しないまま回線を選ぶと、
どれだけ有名なサービスを選んでも、
どれだけ高速な回線を導入しても、
同じ場所でつまずくことになる。
次の章では、この歪みが具体的にどのような形で現れるのか。
まずは、情シス不在企業で最も起きやすい問題である
**「判断の責任者が存在しない状態」**について、さらに掘り下げていく。
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内部リンク記事タイトル
情シス不在企業が回線選びで必ず詰む構造
― 中小企業はなぜ「正しく選んだつもり」で失敗するのか ―
STEP3|制約①:専門知識がないのではなく「判断の責任者」がいない

情シスがいない会社が回線選びで失敗する理由として、
「専門知識が足りないからだ」と語られることが多い。
だが、これは半分正しく、半分は的外れだ。
実際には、多くの中小企業の担当者は驚くほど真剣に調べている。
回線の種類を比較し、用語を調べ、口コミや事例にも目を通す。
営業の説明も一度では理解できなくても、何度も確認し、納得しようとする。
ここに「怠慢」や「無知」が原因として存在するケースは、ほとんどない。
それでも失敗が起きる最大の理由は、
最終的に「この前提でいく」と決め切る判断の責任者がいないことにある。
情シスがある会社では、この役割が明確だ。
多少説明が難しくても、リスクが見えにくくても、
「この構成で行く理由」と「起きうる問題」を引き受ける人がいる。
その人がいるからこそ、回線選びは単なる比較ではなく、判断になる。
一方、情シスがいない会社では、判断が分散する。
調べる人、話を聞く人、決裁する人がそれぞれ別で、
誰もが部分的には理解しているが、全体を引き受けてはいない状態になりやすい。
たとえば、
営業からの説明を聞いた担当者は「問題なさそうだ」と感じる。
経営者は「担当が納得しているなら大丈夫だろう」と判断する。
こうして契約は成立するが、
誰も「業務全体に対する影響」を背負ってはいない。
この状態でトラブルが起きると、
「そこまで想定していなかった」
「それは回線の話だと思っていなかった」
「その部分は別の機器の問題だと思っていた」
と、認識のズレが一気に噴き出す。
重要なのは、これは判断ミスではなく、判断不在だという点だ。
回線の良し悪しを決めたのではなく、
「決めたような気になっていただけ」という状況に近い。
情シスがいない会社では、
・誰が最終的にリスクを引き受けるのか
・どこまでを想定外として許容するのか
・業務停止とコストのどちらを優先するのか
こうした問いが、回線選びの場で言語化されにくい。
その結果、
「スペックは十分なはずなのに、現場では使えない」
「契約内容は正しいのに、運用が回らない」
という事態が起きる。
これは技術の問題ではない。
回線の選択肢の問題でもない。
判断を引き受ける立場が空白になっていることが、最初から歪みを生んでいる。
次の章では、この「判断不在」の状態が、
なぜベンダー主導の回線選びにつながりやすいのか。
そして、それがどのように失敗を加速させるのかを見ていく。
STEP4|制約②:ベンダー主導で話が進みやすい

判断の責任者が不在のまま回線選びが進むと、次に起きるのは決まっている。
話の主導権が、自然とベンダー側に移るという現象だ。
これは、誰かが意図的に主導権を奪っているわけではない。
むしろ、情シスがいない会社では「そうならざるを得ない構造」になっている。
回線選定の場では、
・専門用語が多い
・仕組みが見えにくい
・将来のトラブルを完全に予測できない
こうした要素が必ず出てくる。
判断を引き受ける立場が社内に存在しない場合、
その空白を埋める役割を担うのは、説明できる側――つまりベンダーになる。
担当者はこう考える。
「ここまで詳しく説明してくれているのだから」
「プロが勧めるなら大丈夫だろう」
「法人向けと言っているし、実績もある」。
この判断自体は、決して不合理ではない。
問題は、ベンダーの説明が、会社の業務全体を前提に設計されているとは限らない点にある。
ベンダーは、自社サービスの範囲については責任を持って説明する。
しかし、
・社内ネットワーク全体
・VPNの利用実態
・業務の止まり方
・トラブル発生時の社内対応
こうした部分まで含めて「最適化」する役割を、必ずしも担っているわけではない。
情シスがある会社であれば、
「その説明は回線の話としては正しいが、運用面では合わない」
「その前提だと、うちの業務は止まる」
といったブレーキが自然とかかる。
だが、情シス不在の会社では、そのブレーキが存在しない。
結果として、
説明された内容=最適解
という形で話が進みやすくなる。
そして、ここで起きやすいのが「説明と理解のズレ」だ。
ベンダーはリスクを説明している。
担当者も説明を聞いている。
それでも、両者が想定している「業務への影響」は一致していないことが多い。
たとえば、
「混雑時に速度が低下する可能性があります」
という説明を、
ベンダーは「仕様上の注意点」として伝え、
担当者は「多少遅くなる程度」と受け取る。
しかし実際には、その“多少”が、
VPN切断や業務停止という形で表面化することもある。
このズレは、誰かの説明不足や理解不足ではない。
業務全体を前提に、説明を翻訳する役割が社内に存在しないことが原因だ。
さらに厄介なのは、導入後に問題が起きたときだ。
ベンダーはこう言う。
「契約内容としては想定内です」
「回線自体は正常に動作しています」。
一方、会社側はこう感じる。
「そんな話は聞いていなかった」
「業務が止まるとは思わなかった」。
ここで初めて、
主導権を握っていたのは誰だったのかが浮き彫りになる。
情シスがいない会社では、
ベンダー主導で話が進むこと自体が問題なのではない。
問題なのは、
主導権を預けたまま、その影響範囲を誰も引き受けていないことだ。
この状態では、回線の選択肢がいくら正しく見えても、
運用フェーズで必ず歪みが出る。
次の章では、この歪みが
「回線を通信費としてしか見なくなる」という、
さらに根深い制約につながっていく理由を掘り下げていく。
関連記事:回線選びで起きやすい判断ミス
法人回線を「回線名」で選ぶと事故る理由
― サービス比較が失敗につながる本当の原因 ―
STEP5|制約③:回線を「ITインフラ」ではなく「通信費」として見ている

ベンダー主導で回線選びが進むと、次に起きやすいのが
回線を「ITインフラ」ではなく、単なる「通信費」として捉えてしまうことだ。
月額いくらか。
キャンペーンでどれだけ安くなるか。
最大通信速度はどのくらいか。
これらは確かに重要な情報だ。
しかし、情シスがいない会社ほど、こうした数字が判断の中心になりやすい。
なぜなら、それ以外の基準が社内で言語化されていないからだ。
情シスがある会社では、回線は明確に「業務基盤」として扱われる。
止まったら何が起きるのか。
どの業務が影響を受けるのか。
復旧までにどれくらいの時間を許容できるのか。
こうした視点が、回線選びの前提として共有されている。
一方で、情シス不在の会社では、回線は経費項目として扱われやすい。
毎月必ず発生する固定費。
できれば安く抑えたいコスト。
その感覚自体は、経営判断として自然だ。
問題は、その感覚のまま回線を選んでしまうことにある。
通信費として見た場合、
「同じようなサービスなら安いほうがいい」
「速度が高いなら問題ない」
という判断になりやすい。
だが、業務インフラとして見た場合、判断基準はまったく変わる。
たとえば、
月に数千円の差であっても、
VPNが不安定になり、
業務が止まり、
対応に人手が取られ、
取引先への信用に影響が出るとしたらどうだろう。
このコストは、通信費の明細には表れない。
だが、確実に会社の中で発生している。
情シスがいない会社では、
この「見えないコスト」を事前に評価する仕組みがない。
そのため、回線の価値を
月額料金とスペックだけで測ってしまう。
さらに、ベンダー主導の説明も、この見方を後押しする。
料金表、速度比較、キャンペーン。
どれも分かりやすく、説明しやすい。
一方で、
「この構成だと、障害時に切り分けが難しくなる」
「業務のピーク時間帯と混雑が重なる」
といった話は、資料にも数字にもなりにくい。
結果として、
回線選びは「安くて速いものを選ぶ作業」になり、
業務との接続点が置き去りにされる。
そして導入後、
「通信費は安くなったが、トラブル対応で時間を取られるようになった」
「速度は出ているはずなのに、業務が安定しない」
という違和感が生まれる。
これは、回線そのものが悪いのではない。
回線の位置づけを誤ったまま選んでしまった結果だ。
情シス不在の会社ほど、
回線を「ITインフラ」として扱うための視点が不足しやすい。
その不足が、判断基準を単純化し、
後戻りできない選択をしてしまう原因になる。
次の章では、この考え方の延長線上で起きる、
さらに深刻な問題――
トラブル時に切り分けができなくなる構造について見ていく。
STEP6|制約④:トラブル時の切り分けができない

回線を「通信費」として捉えたまま導入すると、
トラブルが起きた瞬間に、最も深刻な問題が表面化する。
原因の切り分けができないという問題だ。
インターネットが遅い。
VPNが切れる。
特定の時間帯だけ業務が止まる。
こうした症状が出たとき、
本来は複数の要因を分けて考える必要がある。
回線そのものの問題なのか。
ルーターや社内ネットワークの問題なのか。
VPNやクラウドサービス側の問題なのか。
情シスがある会社では、この切り分けが自然に行われる。
どこまでが自社の管理範囲で、
どこからが外部サービスの責任なのか。
その境界を前提として、調査や問い合わせが進む。
一方で、情シス不在の会社では、この前提が存在しない。
回線は契約している。
機器も動いている。
設定も大きくは変えていない。
それでも問題が起きたとき、
「どこから手を付ければいいのか分からない」状態になる。
結果として、対応は場当たり的になる。
回線会社に問い合わせる。
「回線は正常です」と言われる。
次にVPNベンダーに連絡する。
「ネットワーク環境の問題ではないですか」と返される。
ルーターのメーカーにも聞いてみる。
「設定を確認してください」と言われる。
このやり取りを繰り返すうちに、
誰も「間違ったこと」は言っていないのに、
問題だけが残り続ける。
ここで多くの会社が勘違いする。
「サポートの質が悪い」
「たらい回しにされている」。
だが実際には、
切り分けの起点を社内で持てていないことが原因だ。
情シスがいない会社では、
回線選びの段階で
・障害が起きた場合の切り分け手順
・誰がどこまで判断するのか
・どの情報をもって問い合わせるのか
といった設計がなされていない。
なぜなら、回線を「止まったら困るインフラ」ではなく、
「月額で支払う通信サービス」として選んでいるからだ。
平常時には問題にならない。
しかし一度トラブルが起きると、
この設計不足が一気に噴き出す。
さらに厄介なのは、
切り分けができない状態が続くと、
原因を誤認したまま対策を打ってしまうことだ。
ルーターを買い替える。
設定をいじる。
別のVPNを試す。
それでも改善しない。
こうしてコストと時間だけが消費され、
「結局、何が悪かったのか分からない」まま運用が続く。
これは技術力の問題ではない。
対応が遅いからでもない。
回線選びの時点で、トラブル対応まで含めて設計されていないことが原因だ。
情シス不在の会社ほど、
トラブル時に初めて
「回線は契約して終わりではなかった」
という現実に直面する。
次の章では、
ここまで積み重なった制約が、
どのような「思い込み」や「誤解」として表面化するのか。
多くの会社が無意識に信じている
回線選びに関する典型的な誤解を、一つずつ整理していく。
トラブルが起きている場合はこちらも重要です
VPNが遅い・切れる会社に共通する回線構成ミス
― 設定以前に見落とされている設計の問題 ―
STEP7|情シス不在企業が必ずハマる「回線選びの誤解」

ここまで見てきた制約は、偶然が重なって起きているわけではない。
情シス不在の会社では、回線選びにおいて特定の誤解が、ほぼ必ず入り込む。
しかも厄介なのは、その誤解が「もっともらしく見える」ことだ。
まず多いのが、
「法人向けと書いてあるから安心」という誤解である。
法人向け回線、法人プラン、ビジネスユース対応。
こうした言葉を見ると、多くの担当者は
「業務で使っても問題ない前提なのだろう」
と受け取る。
だが実際には、「法人向け」という表現は、
契約主体やサポート窓口の違いを示しているに過ぎないことも多い。
業務の止まり方や、
VPN利用時の挙動、
障害時の切り分け体制まで保証しているとは限らない。
それでも、判断の責任者がいない状態では、
この言葉が「安全の証明」として機能してしまう。
次に多いのが、
「大手だから大丈夫」という誤解だ。
知名度が高い。
利用者が多い。
長年サービスを提供している。
これらは確かに信頼材料になる。
だが、大手であることと、
自社の業務に最適であることは別の話だ。
大手サービスほど、
「標準化された前提」で設計されていることが多い。
その標準から外れた使い方をした瞬間、
問題が顕在化するケースも少なくない。
情シスがある会社であれば、
「標準から外れる部分」を事前に洗い出す。
だが情シス不在の会社では、
「大手=万能」という思い込みが、その作業を省略させてしまう。
さらに厄介なのが、
「速度が出ているなら問題ない」という誤解だ。
スピードテストをすると数百Mbps出ている。
動画も見られる。
Web閲覧も問題ない。
この状態を見ると、
「回線は正常だ」と判断してしまいがちだ。
しかし、業務で問題になるのは
常に「平均的な速度」ではない。
一時的な遅延、
パケットロス、
接続の不安定さ。
こうした要素は、速度テストの数値には表れにくい。
情シスがいない会社では、
この違いを説明し、判断基準に落とし込む人がいない。
結果として、
「速い=安定している」
という短絡的な理解が残る。
もう一つ、見逃されがちな誤解がある。
「何かあったらサポートに聞けばいい」という考え方だ。
確かに、問い合わせ先は用意されている。
だが、サポートは万能ではない。
自社の業務全体を把握しているわけでも、
複数サービスを横断して責任を持つわけでもない。
切り分けの起点が社内にない状態で問い合わせても、
返ってくるのは「一般論」や「契約範囲内の回答」になる。
その結果、
「聞いても解決しない」
という不満だけが積み重なる。
これらの誤解に共通しているのは、
判断を外部に委ねたまま、安心感だけを得ようとしている点だ。
情シス不在の会社では、
こうした誤解が積み重なり、
「選んだ理由は説明できるが、
なぜそれで業務が止まるのかは説明できない」
という状態に陥りやすい。
重要なのは、
これらの誤解は「間違った思考」ではなく、
前提整理を担う役割が欠けていることで生まれる自然な思考だということだ。
次の章では、
こうした誤解に振り回されず、
情シスがいない前提でも失敗を避けている会社が
実際にどんな「前提整理」を行っているのかを見ていく。
STEP8|失敗しない会社が密かにやっている“前提整理”

情シスがいないにもかかわらず、回線選びで大きな失敗をしていない会社がある。
彼らが特別な技術を持っているわけでも、高価なサービスを使っているわけでもない。
違いはただ一つ、回線を選ぶ前に「前提」を整理しているかどうかだ。
ここで言う前提整理とは、
専門的な設計書を作ることでも、難しい用語を理解することでもない。
むしろ、非常に地味で、誰でもできる問いを、順番に確認しているだけだ。
まず彼らが最初に考えるのは、
**「どの業務が止まると一番困るのか」**という点だ。
売上に直結する業務なのか。
社内だけで完結する作業なのか。
一時的に止まっても後で取り戻せるのか。
この整理ができている会社は、
「全部が止まる前提」で回線を考えない。
次に整理しているのが、
**「止まったとき、誰が最初に気づき、誰が動くのか」**だ。
トラブルは、深夜や早朝に起きることもある。
現場から声が上がって初めて気づくのか。
それとも監視やアラートで把握できるのか。
この点を曖昧にしたまま回線を選ぶと、
復旧が遅れるだけでなく、責任の所在も曖昧になる。
さらに、失敗しない会社は、
「自社で判断できる範囲」と「外部に任せる範囲」を分けて考えている。
回線の障害なのか。
社内ネットワークの問題なのか。
VPNやクラウド側の問題なのか。
これらを完全に切り分けることはできなくても、
「どこまで自社で判断するか」を決めておくだけで、
トラブル時の動きは大きく変わる。
ここで重要なのは、
すべてを自社で抱え込まないことだ。
失敗しない会社は、
「自分たちで全部理解しよう」とはしていない。
その代わり、
「判断に必要なポイントだけは社内で持つ」
という姿勢を徹底している。
たとえば、
・安定性を優先するのか
・コストを優先するのか
・多少のトラブルは許容するのか
こうした価値判断を、契約前に明確にしている。
この前提が共有されていれば、
ベンダーの説明を聞いたときも、
「それは自社の前提に合っているかどうか」
という視点で判断できる。
説明に流されるのではなく、
説明を評価する側に立てる。
情シスがいない会社にとって、
最も危険なのは「何も決めないまま選ぶこと」だ。
逆に言えば、
前提さえ整理できていれば、
専門知識がなくても、大きな失敗は避けられる。
回線選びで失敗しない会社は、
回線名を見る前に、
料金を見る前に、
まず「自分たちは何を守りたいのか」を決めている。
次の章では、
こうした前提整理を踏まえたうえで、
情シスがいない会社でも現実的に取れる選択肢について、
具体的な考え方を整理していく。
判断軸を整理したい方はこちら
【法人向け】インターネット回線の比較軸まとめ
― 失敗しない会社は「ここ」を先に決めている ―
STEP9|情シスがいなくても失敗を回避する現実的な方法

ここまで読んで、
「理屈は分かったが、結局どうすればいいのか」
そう感じているかもしれない。
情シスがいない以上、
専門家と同じ判断をすることはできない。
それでも、致命的な失敗を避ける方法は確かに存在する。
それは、「内製」と「丸投げ」の中間に立つことだ。
まず重要なのは、
すべてを自分たちで理解しようとしないことだ。
回線の仕組み、ネットワーク構成、VPNの挙動。
これらを完璧に把握するには、時間も経験も足りない。
無理に追いつこうとすると、
かえって判断が遅れ、選択を誤る。
一方で、
すべてを外部に任せきることも危険だ。
前提を共有しないまま委ねれば、
ベンダーは「一般的に問題ない構成」を提案する。
それが自社の業務に合うかどうかは、別の話だ。
失敗を回避している会社は、
この中間に立っている。
具体的には、
**「判断軸だけは社内に残す」**という姿勢を取っている。
たとえば、
・多少コストが上がっても安定性を優先する
・業務停止リスクは極力避けたい
・トラブル対応に人を割けない
こうした方針を、契約前に言語化する。
この判断軸があるだけで、
ベンダーとの会話は大きく変わる。
説明を「聞く側」から、
**「条件に合っているかを確認する側」**に回れるからだ。
次に重要なのが、
**「トラブル時の相談先を一本にしないこと」**だ。
回線会社、VPNベンダー、機器メーカー。
それぞれに問い合わせ先がある状態は、
切り分けができない会社にとって負担が大きい。
すべてを一本化できなくても、
「最初に相談する窓口」を決めておくだけで、
混乱は大幅に減る。
また、
導入前に「起きてほしくない事態」を共有することも重要だ。
速度が多少落ちるのは許容できるのか。
VPNが一時的に切れるのは許されるのか。
どの時間帯に止まると致命的なのか。
これらを事前に伝えておくことで、
提案内容も、リスク説明の質も変わる。
情シスがいない会社にとって、
最も現実的な戦略は、
「正解を当てにいく」ことではない。
**「致命的な失敗を避ける設計にする」**ことだ。
そのためには、
・判断を完全に手放さない
・前提を共有する
・トラブル時の動きを想定する
この三点を押さえるだけでいい。
ここまでの整理を踏まえれば、
回線選びはもはや「運任せ」ではなくなる。
専門知識がなくても、
情シスがいなくても、
失敗しにくい選択肢は確実に見えてくる。
次はいよいよまとめだ。
この記事全体で伝えてきたことを、
もう一度、構造として整理していく。
STEP10|まとめ

情シスがいない会社ほど、回線選びで失敗しやすい。
これは珍しい話でも、能力の問題でもない。
多くの中小企業が、構造的にそうならざるを得ない場所に立たされているだけだ。
回線トラブルが起きたとき、
設定を疑い、機器を疑い、サービスを疑う。
それでも解決しないのは、
原因が「技術」ではなく「前提」にあるからだ。
この記事で見てきたように、
情シス不在の会社では、
・判断の責任者が存在しない
・ベンダー主導で話が進みやすい
・回線を通信費として捉えてしまう
・トラブル時の切り分けができない
こうした制約が、静かに積み重なっていく。
その結果、
「選んだ理由は説明できるのに、
なぜ業務が止まるのかは説明できない」
という状態に陥る。
重要なのは、
これは誰かが間違った判断をしたから起きたわけではない、という点だ。
判断を引き受ける役割が空白だったことが、
回線選び全体を歪めていただけだ。
一方で、情シスがいなくても失敗を避けている会社は、
難しいことをしているわけではない。
回線名やスペックを見る前に、
「何を守りたいのか」
「どこまでを許容するのか」
という前提を整理しているだけだ。
すべてを理解しようとしない。
すべてを外部に任せきらない。
判断軸だけは社内に残す。
この姿勢があるかどうかで、
回線選びは「賭け」から「設計」に変わる。
情シスがいないことは、不利な条件ではある。
だが、それは失敗が確定する条件ではない。
構造を理解し、前提を整理すれば、
専門知識がなくても、致命的な選択は避けられる。
回線選びで本当に問われているのは、
どのサービスを選ぶかではない。
誰が、どの前提で、何を判断するのかだ。
その軸さえ見失わなければ、
情シス不在の会社でも、
業務を止めない回線選びは十分に可能だ。
最終判断の前に確認しておきたい記事
なぜ料金・速度比較だけでは法人回線は選べないのか
― 失敗する会社と、失敗しない会社の決定的な違い ―
